校長より生徒の皆さんへ「挑戦する読書-第2回-」

 

 臨時休業が今月末31日(日)まで延長されました。しかしながら,18日(月)からは中学校,高校ともに学年ごとに登校日を設定し,生徒の皆さんと会えることができるようになりました。学校においても,来週一週間は感染防止に向け,万全の準備をして皆さんの登校を待ちたいと思います。学校からの黎メールをしっかり確かめ,登校に備えて下さい。

 さて「挑戦する読書」第2回です。今回はフランス文学です。

  モーパッサン『脂肪の塊』岩波文庫

 舞台は普仏戦争。プロイセン軍に占領されたフランス北部ルーアンという都市に住むフランス人たちが乗合馬車に乗って街から逃れようとしているところ。その馬車には「脂肪の塊(ブールドシェイフ)」と呼ばれた娼婦と,国会議員やワイン問屋を営むお金持ちの夫婦,上流階級の夫婦,伯爵夫妻,そして修道女2人などが乗車していて,馬車の中は当時のフランス社会を象徴する空間でした。
 作品の前半では,乗客は取るものも取りあえず街を出ようとしたことで,空腹に苦しむ乗客が描かれます。ところが食料がたくさん入ったバスケットを取り出したのがブールドシェイフ。空腹に耐えかねていた人々に対し食料を勧めると,それまで車内で冷たい視線を浴びせ続けていた人々の態度は一変・・・。

 物語は馬車が占領されている場所を通る佳境に入ります。

 通行を禁止され一行は足止めを食らいます。なかなか出発を許されず,命の危険を感じ始めた一行は、空腹を満たしてくれた恩義も忘れ、ブールドシェイフに対し,ことば巧みに犠牲の精神を説いて,プロイセン軍の士官に身を売らせようとします。ここから結末までは是非手にとって読んで欲しいと思います。

 実は他人に対する思いやりを持っていたのは娼婦ひとり。社会的に蔑まれている娼婦を主人公に人間の醜さを浮かび上がらせたモーパッサンのデビュー作です。私は大学生の時に初めて読んで,それまで外国文学を読まずにきた自分自身に焦りを感じた作品です。人間の内面に鋭く切り込んだこの作品に挑戦してみてはどうですか!

                       令和2年5月8日
                                校長 小川 典昭